2020年7月16日木曜日

なぜ水曜どうでしょうの新作「北海道で家、建てます」が面白いのか

こんにちは、こんばんは、KoR89です。先日実家家族が我が家に遊びに来た時、妹から水曜どうでしょうの新作が面白かったという話になったのですが、他の家族もいる手前であんまり話すことが出来なかったので、ここで発散したいと思います。なので、ネタバレ含みます。


なぜ水曜どうでしょうの新作
「北海道で家、建てます」が面白いのか


3ヶ月間の騙しが「アハ体験」を呼び起こす

一時期耳にしていた「アハ体験」とは、未知の物事に関する知覚関係を瞬間的に認識することです。今回の「北海道で家、建てます」の最終回は、まさしく3ヶ月間の視聴体験が直感的に、そして瞬間的につながり、このシリーズが持つ仕掛けを理解することができるアハ体験を提供してくれます。そして、それが爆発的な面白さを喚起します。

大泉洋はつまらないシリーズだと思っていた

シリーズ開始当初「北海道で家、建てます」は、つまらないシリーズなのではないかと思っていました。それは、前枠(本編が始まる前の大泉さん・鈴井さんの30秒程のストーリー紹介)で大泉さんが「今回のシリーズは期待しないで欲しい」といった主旨の発言をしていたからです。新シリーズを待っていた方からすると、随分前から予防線を張るなとすこしがっかりするところがありました。この第1・2話の前枠は2019年10月の水曜どうでしょう祭りで取られたものでありました。そして、それを受けての1話は企画発表が終わらず、「水曜どうでしょうは迷走している」の藤村さん(ディレクター)の発言もあり、期待感が少し下降気味で終わりました。ただ第2話では、新しく家を建てるというこれまでの旅とは少し違った企画に、個人的にはワクワクしました。

前枠に大泉洋が出ない / 主演が大泉洋ではない

これまでのシリーズにはなかったことだと思うのですが、このシリーズの前枠・後枠に大泉洋が連続して出てきません。これまでどんなに大泉さんは忙しくても、前枠・後枠は鈴井さんと揃って出てくることで、ファンとしては大泉さんも鈴井さんも(特に大泉さんが)水曜どうでしょうを大切にしているんだなと嬉しく思っています。
また、誰が主役かということについてどうでしょう班の中で話題になります。その結果、エンドロールでは主演の位置から、大泉さんが離れて鈴井さんになります。もちろん、鈴井さんも大切なのですが、ファンとしたら「大泉洋こそ主役だろう」という気持ちもあります。そして、まるっと大泉さんが出てこない回があり、水曜どうでしょうの大泉さん離れが起きていきます。

藤村さんがYouTubeを使ってファンと一緒に最終回を見る

大泉さんが面白くないと思っているのにも関わらず、藤村さんはなぜか自信満々です。それは、新作が出る少し前から始まったYouTubeチャンネルからも伺えます。YouTubeチャンネルでは、藤村さん達が新作を見ながら副音声をつける企画を行ったり、最終回では藩士(水曜どうでしょうファンの愛称)を呼んで彼らと一緒に最終回を見ることで、反応を楽しむという企画が行われたりしました。

つまりまとめると、大泉洋さんはこのシリーズを面白くないと思っており、大泉洋さんが出演していない回が多いのにも関わらず、なぜか藤村さんは自信を持っているというそういうシリーズなのです。これまで自信作は、大泉洋さんも面白いと公言してきたのにも関わらず、そうでないシリーズなのです。

「北海道で家、建てます」のネタバレ

簡単に「北海道で家、建てます」のストーリーを紹介したいと思います。2017年1月に鈴井さんの家がある赤平に呼ばれた大泉さんは、藤村さん達から一応Bプランはあるから、大泉さんに企画を考えて欲しいと打診されます。延々と考えて大泉さんはBプランで行くことを藤村さん達に伝えると、藤村さん達はBプランとして赤平に土地を用意していて、そこに家を建てる企画を伝えらます。その後、不定期にロケを行い家を少しずつ作っていきます。徐々に大泉さんがいないロケも行われるようになります。ロケ開始から1年後の2018年冬、大泉さんが不在のロケで高床が建築された家を見に行くと、雪で家が倒壊してしまいました。その後、家が倒壊してしまったことを大泉さんに隠したまま業者に家を建築させ、2年後の2020年2月、最終回の撮影時にネタバレを行います。そして、視聴者も最終回で前枠・後枠で出てきた家が、業者が作成したものであるということを知るというストーリーです。

1つ目のアハ体験:大泉さんがなぜつまらないシリーズだと思ったのか

大泉洋さんがこのシリーズを面白くないと言った第1話・第2話の前枠・後枠を撮ったのは、2019年10月のことでした。つまり、大泉洋はこのシリーズのエンディングである大泉さんが途中まで作った家は倒壊し、業者が完成形を作るというオチを知らず、自分が途中までしか参加していない中途半端な企画であると勘違いしているというわけです。そのため、大泉洋さんは自信がないということです。

2つ目のアハ体験:なぜ、大泉洋が不在の前枠・後枠が多いのか

このシリーズの隠れたテーマは、「不在のやつが、主役だ」ということです。主演から外れた人間、ここにはいない人間を実はみんなが考えて行動しているということです。それを前枠・後枠が表現しており、シリーズ期間中の前枠・後枠で出てくる家(小屋)に大泉洋を呼んでしまうとネタバレになってしまうので呼べないという切実な状況にあるわけです。つまり、仲間外れにしているのではなく、大泉さんのことを考えると呼べないということを表現しているということです。

3つ目のアハ体験:なぜ、藤村さんは自信があったのか

この企画のポイントは、実は視聴者も大泉さんと一緒に藤村さん達に騙される3ヶ月を過ごしているということです。これまで事前にオチやネタを視聴者は教えられて、それに騙されていく大泉さんの姿を見ていました。ただ、大泉さんが騙されていた期間に比べると短いですが、視聴者も3ヶ月間大泉さん達が家を建てたと騙されていました。それは企画発表が終わりいよいよ家を作り始めた第3話の前枠で、作ったであろう家の中で前枠を撮ってているからです。2年間という期間で大泉さんを騙した後に、3ヶ月間騙されていた視聴者を直接見るため、藤村さんは藩士を集めて最終回を見ていたわけです。これはつまり、今まで藤村さん達に騙される大泉さんを楽しむという構造から、藤村さんに自分達が騙されることを楽しむという構造に大きな転換を発生させることになります。

藤村忠寿は騙しのプロ

僕たちは大泉洋さんのことを騙されて、馬鹿だ馬鹿だと思ってきました。ただ、このシリーズを通じて、藤村忠寿は騙しのプロなんだということ知りました。ちなみに、私は騙されました。あの家は、大泉さん達が作ったものだと思ってワクワクして見ていて、その気持ち裏切られることになりましたが、端々にあった違和感の理由がすべて分かっていくようで、なぜか最終回が終わってスッキリした気持ちになりました。騙しのプロは怒りではなく、なぜかスッキリした気持ちにさせてくれるのでした。

2020年2月13日木曜日

『野村ノート』を読む 第1章

こんにちは、こんばんわ、KoR89こと畠山薫です。
野村克也さんがお亡くなりになり、僕としても野村さんから学んだことも多いと感じ、この度代表作の『野村ノート』を僕がどう読んだのか、どう生活や仕事に役立てているのか、記録したい。



『野村ノート』を読む 第1章


野村さんの考え方の優れたところ、2つ

野村さんの考え方の優れたところは、大きく2つあると思っている。まず、意味のある目標を印象的な言葉で伝えるところ、次に事象を取り扱える程度に分解することだ。例えば、どう選手を長期的に成長させるのか説くところでは次のように言っている。
 そこで大事になるのは、人間はみな人生を生き抜くという使命をもって存在しているということを選手に説き、その使命感を選手ひとりひとりに認識させることである。だからこそいやが応にも、人生を教えなくてはならないのだ
野村さんの掲げる目標は大きい。立派な野球選手になることは、人生を生き抜くことだと説く。ただ、もちろんこのように大きな目標を言われるだけでは、どうすれば良いのか選手としても途方にくれてしまう。そこで、野村さんは補助線を加える。
人生という2文字から私は次の4つの言葉を連想する。
 「人として生まれる」(運命)
「人として生きる」(責任と使命)
「人を生かす」(仕事、チーム力)
「人を生む」(繁栄、育成、継続)
(中略)
 さらにチームをつくりあげるうえでは2つ目の「人として生きる」を選手に徹底して教え込まなくてはいけない。
ここまで整理してもらえると、選手であっても自分がしないといけないことが薄っすらと見えてくる。簡単に言えば、自分が与えたられた役割を精一杯果たすことに集中すべきだということだ。

なぜ優れているのか

僕は少しへそ曲がりだから、厳密に考えた時に野村さんの言っているように、人生という言葉から連想される4つの言葉で、人生のすべてをMECEに表すことが出来ているかと問うと、そうではないのではないかと正直思う。実際に、これから紹介する野村さんの考え方の中には、MECEに感じられない部分も多い。

ただ、厳密なMECEをするような考え方が、現実の課題の解決に役立つのかという、残念ながらそうではない。物事を厳密に考えようとすればするほど、物事の網の目の中に取り込まれて出てこれない。とはいえ、何も整理をしないで物事を漠然と見るだけでは、問題を解決することが出来ない。

つまり、直感的に利用することができる枠組み(フレームワーク)が人生には必要になる。自分の人生の段階から、人生の4つの言葉のうち何を果たすべきなのか、きっと多くの人が選択することができるはずだ。例えば、チームのリーダーになった人は、「人を生かす」ことがきっと重要に思うだろう。

野村ノートの中には、そういった野村さんの人生に役立つフレームワークに溢れている。

野村ノート (小学館文庫)   野村 克也